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ウブロジャパン髙倉社長の「5社の社長になる極意」 2010年02月03日

連載12回「奇策のすすめ」

雑誌に掲載された、42歳の頃の筆者。

口紅のキャップにプレゼントする女性の名前を彫り込んだ<ネームカーヴィングリップスティック>を大ヒットさせた髙倉さんは、さらにその目をギフト需要に向ける。「ギフトの付加価値をつけるのが売れる早道」と考えたからだ。それまで元気のなかったジバンシイというブランドが、<ギフト>で見事に甦って行く――。

口紅のキャップに名前を彫る。それを男性から女性へのプレゼントにする。そしてジバンシイの売り場に男性客の列を作らせる――。これは、高級感や伝統を売り物にしていたブランド化粧品の売り方としては<奇策>だったと思います。実際にも、「あんな売り方をして。ジバンシイのブランドイメージとしてどうなんだ?」という声も上がりました。
でも、奇策を使って何が悪いの? と私は思います。その奇策で誰かが不幸になったわけじゃないし、それどころか、彼女へのクリスマスプレゼントに迷う男性を救ってあげたわけだし、二人の愛を深めることにもなったでしょう。クリスマス以降のふたりの関係についてはわかりませんけどね(笑)。
奇策の反対語は<凡策>です。広告予算がたっぷりあって、人も商品ラインナップもたくさんあるブランドなら、凡策でも売れるかも知れませんが、当時のジバンシイには凡策をやるような余裕はありませんでしたからね。
よく私はこのたとえ話を使うんですが、ここに釣り人がたくさんいたとします。誰もが大釣果を夢見ています。釣り人たちの間には、「向こうのあの大きな湖がよく釣れたらしい」というデータが伝わっていて、みんながそっちに釣り糸を垂らします。しかし私はそこでは釣りをせずに、ちょっと離れたところにある小さな池に一人釣り糸を垂らします。
たしかに大きな湖には「過去に大量に釣れた」という記録があって、それを根拠に、「まだ釣れるはず」と期待したり安心したりしているんでしょうが、釣れたのはもう終わった過去のことで、さんざん釣られた魚は、飽きちゃっていたり、釣り針に警戒するようになっていたりするかも知れません。仮にまだ釣れたとして、同じ思いでたくさんの釣り人が集まっていますから、釣って持ち帰れるのはみんなで少しずつシェアし合った分だけ。それだと、うまみが少ないし、おいしい思いが存分にできないじゃないですか(笑)。
それに対して小さな池のほうは、釣れた実績はないけれど、それはまだ誰も釣り糸を垂らしていないからであって、そこに糸を垂らせば大漁につながる可能性があります。そういう初の実績を自分で作れるかも知れない。それにほかに釣り人がいないんですから、釣果=成果が上がれば、旨みもおいしい思いも、全部自分の独り占め。そっちのほうがはるかに効率がいいじゃないですか(笑)。私はそういう風に考えるタチなんです。
かつてあったような企画を焼き直してやるのは、「かつてその方法で売れた」という伝説にしがみつくことです。しかしそれは、以前、誰かがさんざんやって成功した残骸に過ぎなくて、今後はそれでは大きな成果が上がる見込みはないと思います。
誰もやったことのない奇策は、成功したデータはない代わりに、大成功する可能性があります。奇策であるがゆえに、誰もその方法を経験していないし気づいてもいません。だから私は常に、「誰も近寄らない小さな池」=奇策の方向に向かうわけです。

髙倉豊/ウブロジャパン代表取締役
“外資系ブランド・成功請負人”の異名を持つ、ウブロジャパン代表取締役の髙倉豊さん。華々しいその足跡のスタートは、広告代理店の博報堂。「海外に行きたい」「パリに住みたい」というシンプルな動機が、彼を世界の舞台へと駆り立てて行く――。

取材・構成/コヤノヒロカズ

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